「母性」 湊かなえ
Amazonより----------
「これが書けたら、作家を辞めてもいい。そう思いながら書いた小説です」著者入魂の、書き下ろし長編。持つものと持たないもの。欲するものと欲さないもの。二種類の女性、母と娘。高台にある美しい家。暗闇の中で求めていた無償の愛、温もり。ないけれどある、あるけれどない。私は母の分身なのだから。母の願いだったから。心を込めて。私は愛能う限り、娘を大切に育ててきました──。それをめぐる記録と記憶、そして探索の物語。
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読んでいて、自分と母のことかと思いました。
もちろん私の母はリルケの詩集なんて読まないし、義父母と同居じゃなかったし、私は母に殴られた記憶もないし、設定は全然違うのですが、「母」から見た「娘」と、「娘」から見た「母」、それぞれの視線と視点と感情は、もうそのまま私と母じゃないかとちょっと怖くなったくらいです。
この本は、娘でありたい、母からの愛をずっと受けていたい「母親」とそんな母親を持った「娘」が、どこまでもすれ違いながらちょっとずつ、ちょっとずつ堕ちてゆく話です。「娘」は「母」を守りたい。「母」はずっと娘でいたい。「娘」は「母」を守るために行動したり、発言したりします。でもそれは「母」にとって傷ついたり、立場が悪くなることだったりする。そうやってちょっとずつすれ違いお互いへの不安が積み重なっていき、母と娘は自殺(もしくは殺人)しなければならないほどに追い詰められていきます。
湊さん特有の、登場人物が告白する形の書き方なので、どちらかが(どちらもが)嘘をついている可能性もあり、どちらの主張を本当ととらえるかによって読み手は母の味方にも娘の味方にもなると思います。私はどうだったかといえば、最初から最後まで娘の視点で読みました。私自身には子どもが居て母親でもありますが、でもどうしても「母」の告白に同調出来なかった。何故かといえば、「娘」の気持ちがそのまま小さい頃の自分の気持ちソックリだったからです。
母を求める。でも、母は思ったような愛情をくれない。母に振り向いてほしいから、なんとか母がこっちを向いてくれるようなことをしたり、言ったりする。でも母はそれに対して嫌悪感を示したりする。自分が幸せになることは、母にとってもしかしたら妬ましく思うことなのかもしれない。母に断りなくこんなことをしたら、あんなことをしたら、母の機嫌を損ねるかもしれない・・
子どもを産んで母になるまでの私は、まさにこの本に出てくる「娘」のようだったなと思います。自分が母親になり、何かがわかったというよりは、母の手の中に居た自分がやっと外に出られたような、そんな感覚があります。
この本を読み、湊さんの「これが書けたら、作家を辞めてもいい。そう思いながら書いた小説」というコメントを読んで、自分だけじゃなかったんだなと思いました。というよりは、母と娘というものは基本的にそうなんだなと思いました。
なぜならもし私がまだ母の手の中から抜け出せていなかったら、常に母の機嫌や言動を気にして行動しそれを基準に子育てをするだろう私は、娘から見たらまさにこの本に出てくる「母」に他ならないからです。そう思ったら、「母」から見た「娘」とそれに嫌悪感を示す理由も、なんとなくわかってきました。
もしかして。母は娘を、娘は母を、理解することなんて出来ないのかもしれない。それはどんな母娘も一緒で、どうしようもないことなのかもしれない。お互いが理解したつもりになって、お互いの主張の間の調度いいところを、うまい具合に行ったり来たりしながらやっていくものなのかもしれない。
そうやって、母性をうまく操るしか、方法はないのかもしれない。
ラストまで読んで、そんなふうに思いました。
母である女性に、特に読んでいただきたい本です。
母性って。女って。
ややこしいね。
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